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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

日本に残してきた自分に宛てた手紙

                  ≪十月二十五日≫   ―邇―


   閉会式が終わり、ジョセフ・ハウスへ戻ると、新保君がすでに料理を

始めているところだった。

メニューは、ジャガイモ・トマト・キャベツ・ピーマン・きゅうり・玉葱・

のサラダに、ピーマン・ハム・玉葱の野菜炒め。そのほか、パン・スープ・

ワイン、そして大きな輪切りのハムと豪勢な夕食となりそうだ。

総勢12名の東京~アテネヒッチハイク競技大会終了後の最後の晩餐会が、こ

れから催された。

   晩餐会は夜の十時頃まで盛大に行なわれた。

          会長「この大会の模様は、各新聞社、朝日とか毎日な

            ど・・・そのほか雑誌にも掲載される事になった

            から・・・・・・・。」

           俺「やったね!」

          会長「12月には、忘年会を兼ねて、「高校生との対

            談」が、旺文社主催で行なわれるから、全員関西

            へ集合すること。ここでは、テッシンが高校生の

            代表として発言するから・・・。」

        テッシン「ウフェー!!!ワシ嫌やわ―!!恥かしいも

            ん・・・・・。」

           俺「テッシン!かっこうエエなー!期待してるデ

            ー!!」

        テッシン「いやや!・・・・。」

           俺「俺は無理やな。まだヨーロッパ、彷徨ってる

            で。」

          会長「そうか。東川君はまだ帰ってないか・・・。」

   俺だけまだ、冬のヨーロッパを彷徨っているに違いない。

          会長「来年の二月と三月にそれぞれ、一冊ずつ本が出

            版されるので、みんな協力すること。」

           俺「全員?」

          会長「そうだ。皆なんでも良いから書いて送ってく

            れ!」

           俺「執筆なんて・・・・気が重いな。」

          会長「深刻に考えることないんだよ。どうせ、校正す

            るんだから。」

        テッシン「校正って何ですか?」

          会長「ちゃんと文章になるように、プロが直すんだ

            よ。」

           俺「そうですか。だったら出来そう・・・だな。」

          会長「この旅の体験談でも・・・・なんでも良いか

            ら。分かった!!!」

          全員「は~~~い。」

           俺「楽しみですね。出来上がったら貰えるんです

            か?」

          会長「そうだな!」

    皆の旅の体験談が披露され、賑やかな晩餐会が続いた。

会長一家がホテルに戻った後も、賑やかさは続けられた。

あまり五月蝿いので、隣の部屋から苦情が・・・。

           隣「シャラップ!!」

   声と同時に、壁を激しくたたく音が聞こえてきて、やっとお開

き・・・。

新保君と千春は、朝早く発つと言う事で、朝まで起きていると頑張ってい

る。

                      *


   とにかくいろんな事があり、こんなにも夢中にさせてくれた旅は今ま

で経験したことがなかった。

小さい頃からの夢が現実のものとして存在し、「不安」と言うとてつもない

大きな怪物に近づいて観ると、こんなにも可愛いものだったんだと気づかせ

てくれる。

何もしなければ怪物でも、行動に起こせば、実はなんでもない可愛い生き物

だったときずかせてくれる。

とにかく、若いうちに何でも体験することが、人間を大きくさせてくれると

言う事に、やっと気がついた。

それだけでも、この旅は非常に大きな収穫だったのではなかろうか。

                    *

    日本に留まっている自分へ

           貧困、宗教、麻薬、賄賂、売春、列車強盗、山賊、

         詐欺、スリ、同性愛、風土病(急性肝炎・性病・奇病・コ

         レラ・マラリア・チフス・天然痘・狂犬病・赤痢などな

         ど)、伝染病、下痢、習慣、南京虫、ダニ、蚤・・・・。

           こうした、日本では忘れられていたものや、日本に

         ないものが当然のように蔓延っている東南アジア、イン

         ド、中近東での生活。

         驚きに耐えないものばかりでした。

           鳥小屋のような家に蹲る人。

           ガラスの中の少女達。

           夜の三等列車に光る無表情なインド人の目。

           突如として現れる奇病で変形した身体を持つ人た 

           ち。

           無残にも殺された旅行者達。

           熱病で苦しみながら息を引き取った日本人女性。

           さらわれて目をつぶされ娼婦となった日本人女性。

           麻薬を持っていた旅行者と連れになった為犯罪者と

           扱われた日本人女性。

            そして、わずかな現金を必死で誤魔化そうとする

           人たち。

           大人たちに混じって一生懸命、わずかなお金の為に

           働く子供達。

           南京虫の大群に襲われて、二晩眠れぬ夜を送った

           私。

    旅をの途中遭遇したこれらの貴重な体験が、私の人生の

中に刻み込まれていくのがわかります。

二三ヶ月の短期間では、これらの国や生活する人たちを

理解したとは言いませんし言えません。

しかし、日本で生活していくだろう俺自身にとって

は十分すぎるほどの体験でしたしまた、これ以上の体験

をしたいとも考えないでしょう。

    これからまだ、冬服の入った小包と仲間の一人がまだ行

方不明なので、あとしばらくアテネに滞在することでし

ょう。

今・・・こうして、アテネの街でのんびりと過ごし

ていると、今まで通過してきた国々の姿がどんどん過去

のものとして、遠ざかって行くようで、寂しさは隠せま

せん。

    これから第二の目的に向って、冬のヨーロッパの奥深く

入っていく予定です。

ヨーロッパの冬と言う、厳しい現実が待ち受けていそ

うで、のんびりなんかして居られないのですが、今まで

の旅のご褒美として許してやってください。

これからの旅も、見る旅ではなく何かを体験する旅にし

たいと思っています。

           出来ることなら、あなたも来て見て下さい。

         自分の目で見て、自分の足で大地を踏みしめて、皮膚で

         その国のことを感じて欲しいものです.

           それでは又、いつの日か逢える日を楽しみにしてい

         ます。

                      十月二十五日

                        彷徨える異邦人より


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